裁判官として採用される条件はブラックボックスです。もっとも、修習生の採用の傾向を見ていると、当局の考え方がある程度見えてきます。
弁護士や検察官も、魅力がある職業ですが、「自分で判断を出すことができる。」というやりがいは、裁判官でしか経験できないものです。
元裁判官である配偶者や同期の裁判官からのリサーチに基づき、学生や司法修習生から良く出る質問をまとめてみました!
司法試験受験生や司法修習生の方の参考となる記事となれば幸いです!
最近の採用人数は?
従前は100名程度の採用人数で推移していましたが、69期から大幅に減少し、最近は、70名~80名程度で推移しています。
今年(令和6年)は、81名でした。https://www.tokyo-np.co.jp/article/303205(東京新聞 新任判事補、女性比率が過去最高 最高裁長官が辞令交付(2024年1月16日))
裁判官に求められる資質・能力
裁判官として採用されると、毎年人事評価をされます。裁判官の人事評価の項目は、裁判官に求められている能力であり、裏返せば、裁判官として採用されるための能力でもあります。
リンク先のとおり、裁判官の能力は、
- ①事件処理能力
- ②組織運営能力
- ③一般的資質・能力
で評価されます。
裁判官は、評価書の開示を受けることができますが、上記①〜③に沿って、評価が記載されています(最高裁の内部で共有されている情報は、必ずしも評価書に記載されている内容のみではないとは思いますが。)。
修習生の段階でアピールする点としては、上記①〜③に沿って考えると、次の点が指摘できます。
①事件処理能力
実務修習における起案、配属先の裁判官とのやり取り等
やはり起案ができない裁判官は致命的ですので、修習の起案の出来が最も評価されることは、間違いないでしょう。目安としては、基本的には最も優秀な評価(AやA+、優)を取れるように努力すべきでしょう。
1度や2度、上記以外の評価を取ってしまったとしても、それだけで1発アウトになることにはなりませんが、それなりに挽回が必要になってきます。
配属先の裁判官とのやり取りも重要です。修習中は、進行中の事件に関し、今後の進行や手続き、心証について、裁判官から頻繁に質問が飛んできます。そこで、どのような対応(回答)をするのかについて、部長は良く観察していると思ってください。
②組織運営能力
裁判所書記官等の職員とのやり取り等
裁判官と書記官は、車の両輪です。裁判官は、書記官等の職員と密に連携を取って、仕事をしています。
修習中に、書記官等の職員に横柄な態度を取ったりした場合には、かなりのマイナス査定です。
書記官の仕事にも興味を持って、書記官と積極的にコミュニケーションを取ってみることをおススメします。
③一般的資質・能力
実務修習における態度全般(修習に意欲的に取り組んでいるか等)
最近の若い判事補(特例判事補)の方は、コミュニケーション能力が高い方が多いですし、積極性もあります。これらの要素は、裁判官にとって、大切なものです。巷では、「裁判官は書面仕事で、コミュニケーション能力がなくても、成績が良ければ採用される。」との噂があるようですが、誤りです。
あえて自分を偽る必要はありませんが、積極的に起案を申し出たり、質問をしたりといった積極性は、アピールポイントになると思います。
司法試験の順位は関係があるか?
順位が高いと、教官から、早期に「裁判官に興味があるか?」と意向確認される可能性があるという意味では、関係があるといえます。
もっとも、司法試験の順位が高くても、実務修習の成績が悪いと、裁判官としては採用されません。
もふもふは、3桁の順位の後半であっても、裁判官として採用されている方がいます。もふもふが知らないだけで、4桁の順位であったとしても、原始的不能になるとは思われません(実務的な能力の高い方をみすみす逃してしまう。)。
ただし、「なぜ失敗した(低い順位であった)のか」、教官から質問される可能性があります。「失敗から何を学んだのか」という観点は、仕事でも大切なことです。ここは、事前に回答を準備しておいた方が良いと思います。
出身大学(法科大学院)は関係があるか?
これは全くもって関係がありません。有利にも、不利にもなりません。もふもふが知る限り、様々な出身大学(法科大学院)の裁判官がいらっしゃいました。
弁護士事務所の内定は関係があるか?
これは、少しだけ関係していると思います。例えば、5大事務所の内定がある→任官に有利に働くという作用は基本的にはありません。
もっとも、裁判官は、修習中に、明確な内定が出るわけではありません。二回試験前に、最高裁に願書を提出し、二回試験終了後に、最高裁の面接を通過する必要があります。担当教官から、「願書を出して良い。」とのゴーサインが出る=黙示の内定ということになるでしょう。
このゴーサインは、実務修習の後半に出ることが一般的です。そうすると、裁判官を目指して修習を過ごしてきたものの、最後の最後に「やっぱり君はダメ。」ということもあり得るため、その段階から弁護士事務所を探しても遅い、という事態になりかねません。
したがって、担当教官から見れば、弁護士事務所の内定を持っている修習生の方が、万が一の際の保険があるので、声をかけやすいということになります。
修習が開始する前、あるいは遅くとも第1クール中に弁護士事務所の内定を得ることは、1つの戦略といえるでしょう。
年齢は関係があるか?
これは新聞報道等もされているので、公知の事実かと思いますが、年齢は関係ありません。
冒頭で紹介した記事でも、43歳の方が採用されています。
裁判官にはある程度、年功序列的な要素もあるので、裁判官のキャリアとして考えた場合、年齢によっては、所長や高裁の部総括のポストに就くことが難しい、ということはあり得るかも知れませんが、これらのポストに就くことを目標に任官する方は別論として、これを気にする方は少ないのではないでしょうか。
修習地は関係があるか?
これは、少しあるように思われます。
相対的に他の修習生よりも出来が良ければ、教官の目にとまる可能性があるという意味で、人数が少なかったり、あるいは既に弁護士事務所の内定を得てバカンス(言い方は悪いですが。)に来るような修習生(実務修習において、好成績を狙うインセンティブがない。)が多かったりする修習地は、やや狙い目と言えるかも知れません。
もっとも、任官は、教官の「政治力」(自分をプッシュしてくれて、それが当局で通るという趣旨)との兼ね合いもあるので、上記の条件を満たす修習地であれば、絶対的に有利とまでは言い切れません。
おわりに
以上をまとめると、結局のところ、裁判官になるためには、実務修習が最も大切である、ということになります。
裁判官になりたい方は、安心して、実務修習を頑張っていただければと思います。
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