【養育費の実務】離婚時に養育費について合意する場合の留意点は?請求する場合の手続きは?

家事事件

離婚した元配偶者に対し、養育費を請求する場合、通常は家庭裁判所の手続きを利用しますが、地方裁判所に民事訴訟を提起しなければならない場合があります。

実務でも良く問題となる論点ですが、弁護士の方でも、手続きの選択を誤っている場合があるため、請求先については、十分に留意する必要があります。

手続きの選択を誤った場合には、無駄な費用を要したり、最終的な解決までに時間を要することになりかねません。

この点が問題になった最近の裁判例として、東京高決令和5年5月25日があります(説示の内容は、後掲のとおりですので、参考にして下さい。)。

この裁判例は、当事者に養育費の確定的な合意があるケースにおいて、事情変更があるとして養育費の増額を求める場合は別論として、合意に基づく養育費の支払を家庭裁判所に対して求めることはできず、地方裁判所に対し、民事訴訟を提起すべきであるとしています。

以下、解説します。

もふもふ
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養育費の実務において、裁判官が良く参照する文献や参考書については、こちらの記事も参考にしてください。

養育費の合意がある場合の手続きは?

上記裁判例の事案では、当事者間で、養育費の支払を約する書面が作成されていました。

そして、合意の経緯や内容に照らし、当事者間で養育費について確定的に合意した(民法766条2項)と評価できる事案でした。

権利者において、確定した合意に基づき、義務者に養育費の支払を求める場合、家事審判事項ではないので、審判で判断することができず、上記裁判例のとおり、民事訴訟を提起する必要があります。

注意が必要なのは、上記裁判例の事案とは異なり、養育費について確定的に合意したと評価できない場合には、家事審判事項として、家庭裁判所の手続きを経る必要があるという点です。具体的には、養育費請求調停や審判の申立てをする必要があります。

例えば、離婚時の合意内容が、「相手方は、申立人に対し、当事者間の養育費として相当額を支払うものとする。」等の抽象的な内容にとどまる場合、未だ当事者間で養育費について確定的な合意がされたとは評価されないでしょう。

裁判所において、養育費についての確定的な合意があったと評価されるためには、①始期、②養育費の金額、③終期、④支払期(例:毎月末日)を明確に合意する必要があります

当事者双方が、離婚時における養育費の合意を撤回したい場合はどうするか?

この場合は、家庭裁判所において、通常通り、養育費調停・審判の審理が行われることになります。当事者双方が協議の上で、離婚時における養育費の合意を、離婚時に遡って撤回することは可能です。

離婚時に合意した養育費よりも多額の支払を求めたい場合はどうするか?

権利者において、離婚時に合意した養育費よりも多額の支払を求めたい場合には、家庭裁判所に対し、養育費増額の調停・審判の申立てをすることになります。

この場合には、養育費を増額すべき「事情変更」が認められる必要があります。

例えば、権利者の収入が大幅に下がったり、逆に、義務者の収入が大幅に上がったようなケースが考えられます。

通常の養育費の調停・審判の申立てをすることも可能ですが、確定的な合意がある場合、公平の観点から、養育費増額の場合と同様に、事情変更(義務者の収入が離婚時よりも大幅に増加した等)が必要になることが多いです。

東京高決令和5年5月25日

東京高決令和5年5月25日の説示は、次のとおりです。

「 当事者間には、抗告人が相手方に対し、子らの養育費として、令和3年1月6日から子らがそれぞれ高校を卒業する3月まで、子1人につき月額3万円を支払う旨の本件合意が存在するものと認められるところ、相手方が、本件合意に基づき、抗告人に対し、子らの養育費を支払うよう命じることを求める場合には、地方裁判所に対し、抗告人を被告とする訴えの提起をし、判決を求める民事訴訟手続によるべきであって、これを家庭裁判所に対して求めることはできない
 また、本件において、本件合意の基礎とされた事情に変更があったとして、民法766条3項に基づき、本件合意により定めた養育費の額の変更を検討するとしても、上記事情の変更を基礎付ける事情についての当事者の主張はなく、これを認めるに足りる資料もない。
 家庭裁判所は、子の監護について必要な事項の定めをする場合には、家事事件手続法154条3項により、付随処分として財産上の給付を命じることができ、そのような給付を命じる裁判は、同法75条により、執行力のある債務名義と同一の効力を有するものとされているが、本件においては、本件合意が民法766条3項に基づいて変更されたわけではなく、新たな法律関係が形成されたとも言えないのであるから、家事事件手続法154条3項に基づき、何らかの給付を命じることもできない。 」

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