財産分与(調停や審判、人事訴訟)で、裁判官が良く参照する文献や参考書を紹介します(随時、更新していく予定です。)
おススメ度を星5段階で評価してみます!
松本哲泓『離婚に伴う財産分与ー裁判官の視点にみる分与の実務ー』(新日本法規、2019年)
元裁判官の松本先生が執筆されたものです。
財産分与の論点が網羅されており、裁判官のみならず、実務家であればまずは参照する参考書です。
事件において、松本本を前提に議論することは良くあります。松本本に記載のない独自の主張については、裁判例や審判例の裏付けがない限り、裁判所に認められることはほぼないといえます。
手元にあると安心できる参考書といえるでしょう。
もっとも、既に初版から4年半以上経過しており(令和6年1月時点)、この間、重要な裁判例や審判例が多数出ているので、是非改訂版の執筆を期待したいところです。
蓮井俊治「財産分与に関する覚書」ケース研究329号
令和6年1月時点で、新潟地裁で所長をされている蓮井裁判官が執筆された文献です。
日本調停協会連合会が発行している『ケース研究』という雑誌に掲載されています。
調停委員向けに執筆された文献ですが、実務上悩ましい問題(当事者から強く主張される事項)について、痒い所に手が届く記載も多く(例えば、「調査嘱託を採用する場合も、通常は基準時の1年程度前までである。」、「預貯金について婚姻時残高の特有財産性が認められるとしても、0円とし、マイナス計上しない。」等)、大変参考になります。
分量も30頁程度ですので、一読するのも容易です。
興味がある方は、購入方法について、日本調停協会連合会に問合せをしてみてください。
山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家庭裁判所月報第62巻3号1頁以下
令和6年1月時点で、最高裁判所調査官をされている山本裁判官が執筆された文献です。
実務上の論点について、幅広く解説されており、上で紹介した松本本や蓮井論文でも引用されています。
平成22年に発刊された家庭裁判所月報第62巻に掲載されています。やや古いですが、原典として、山本論文に当たることもあります。
武藤裕一ほか『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規、2022年)
現役裁判官が共著で執筆している参考書です。財産分与の分野で、裁判官による参考書としては、この本が比較的新しく、かつ、一読をおススメできるものとなります(上で紹介したとおり、松本本は、初版からやや年数が経過しています。)。
この参考書の特徴としては、「ケースによって異なる。」などと言葉を濁さずに、できる限り論点についての道筋・結論を示すようにしており、読者を考えさせないように配慮しています。
例えば、財産分与の特有財産性が認められるためには、資産ごとに、どのような事実について、いかなる立証が必要なのかを解説されている箇所があり、大変参考になります。
財産分与のみならず、婚姻費用や面会交流等についての実務上の論点についても解説しており、離婚全般について、迷ったときは参照すると、近年の家庭裁判所の実務について、考え方を知ることができます。
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