成立した家事調停の内容に錯誤があり、やり直したい場合はどうすれば良いか

家事事件

家事調停において、例えば離婚や婚姻費用について合意し、調停が成立したものの、その内容に錯誤がある場合、これをやり直す方法として、いくつかの手段が考えられます。

この点についての判断を示した東京高判平成29年5月31日を紹介しつつ、解説します。

もふもふ
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以下に紹介するとおり、①再度調停の申立てをする方法、②期日指定の申立てをする方法、③無効確認訴訟を提起する方法が考えられます。ただし、③については、事件類型によっては利用できない可能性があるので、注意が必要です。

再度の調停申立てを行う方法

まず考えられるのは、再度の調停申立てをする方法です。

例えば、婚姻費用について調停が成立したものの、その内容に錯誤がある場合、再度、婚姻費用分担調停の申立てをすることが考えられます。

法的には、調停の申立てに回数制限はないので、相手方がこれに応じる限りは、再度の協議が可能です。

もっとも、調停の成立後、間を置かずに、再度の調停の申立てをしたり、相手方が協議に応じないような場合には、家庭裁判所において、濫用的な申立てであると判断され、いわゆる「なさず」(家事事件手続法271条「調停委員会は、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、家事調停事件を終了させることができる。」)として、調停が開かれない可能性があります。

また、上記の例で、相手方が調停に応じたとしても、合意に至らない場合には、審判移行することになりますが、事情変更がないとして、却下される可能性が高いでしょう。

なお、裁判官が読み上げた内容と成立調書の条項との間に齟齬がある場合には、調書の更正決定による訂正が可能な場合がありますので、家庭裁判所に相談すると良いでしょう。

期日指定の申立てをする方法

次に、家庭裁判所に対し、成立した家事調停に錯誤があるとして、調停期日の指定を求める方法が考えられます。

家庭裁判所において、錯誤があると判断した場合には、調停の続行期日が指定されることになります。

そこで、再度の協議を行うことが可能になります。婚姻費用等の別表第二審判の場合には、再度の協議の結果、合意が成立しない場合、審判移行し、裁判官によって審判がされることになります。この内容に不服がある場合には、高等裁判所に即時抗告を申し立てることができます、

他方、家庭裁判所において、錯誤がなく、成立した家事調停が有効であると判断された場合には、手続終了の審判がされることになります。

この手続終了の審判に対しても、高等裁判所に即時抗告をすることが可能です。

高等裁判所において、錯誤により、成立した家事調停が無効であると判断された場合には、原審に差し戻されることになります。

無効確認訴訟を提起する方法

事件によっては、成立した家事調停に錯誤があるとして、無効確認訴訟を提起する方法も考えられます。

事件としては、①離婚等の人事に関する訴訟事件についての調停(家事事件手続法244条)と、②婚姻費用等の家事事件手続法別表第二に掲げる事項に係る調停とに分けて考える必要があります。

①については、家庭裁判所に、無効確認訴訟を提起することが可能です。例えば、離婚無効確認訴訟を提起することができます。

他方、②については、東京高判平成29年5月31日は、この方法を否定しています。

同裁判例の事案は、成立した親族間紛争解決調停(実質的には、遺産分割調停でした。)について、当事者が地方裁判所に調停無効確認訴訟を提起したというものです。

原審であるさいたま地裁は、成立した家事調停に錯誤が認められないとして、棄却判決をしました。

これに対する控訴審で、職権で訴えの適法性が判断され、遺産分割調停のような別表第二に係る調停については、先ほど紹介した「期日指定の方法」を利用することが可能であり、これで救済手段に欠けるところはないから、地方裁判所と家庭裁判所との職分管轄をも踏まえると、地方裁判所が家庭裁判所で成立した調停の無効について判断することは許されないとし、訴えを却下しました

同裁判例は、別表第二に係る調停についての無効確認訴訟の適法性を判断したものであり、遺産分割調停に限るものではありません。

例えば、婚姻費用や養育費、面会交流といった他の別表第二に係る調停についても、同様の枠組みが適用されるものと解されます

以上より、②の事件類型においては、地方裁判所に無効確認訴訟を提起しても、採用されない可能性が高いことに注意が必要です(なお、家庭裁判所に対して調停無効確認訴訟を提起しても、人事訴訟法の対象ではないので、当然のことながら、不適法な訴えとして却下されます。)。

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