現在、法制審議会家族法制部会において、家族法制の見直しに関する要綱案が議論されており、祖父母等、父母以外の子の親族による面会交流の制度導入が検討されています。https://mainichi.jp/articles/20231219/k00/00m/010/164000c(毎日新聞 別居の親子の面会交流、祖父母らも申し立て可能に 法制審部会(2023年12月19日))
法制審議会家族法制部会が公表している具体的な要綱案等はこちらです。
(追記)令和6年3月8日に民法改正法案が閣議決定され、国会に提出されました。法案は、こちらです。
面会交流の実務上も、祖父母の面会交流への関与が問題となることが散見されます。
祖父母が孫との面会交流に関与する場面には、①面会交流の「補助者」として関与する場合と、②面会交流の「主体」として関与する場合があります。それぞれ解説します。
本記事の参考文献等
面会交流事件で裁判官が良く参照する文献や参考書については、こちらの記事も参考にしてください。
- 松本哲泓『面会交流-裁判官の視点にみるその在り方-』(新日本法規、2022年)
- 武藤裕一ほか『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規、2022年)
①面会交流の「補助者」として関与する場合
例えば、子が幼少で、子の心情を安定させるために、子が安心できる者の立会いが必要であるが、監護親と非監護親が高葛藤であり、監護親の立会いは現実的に困難である場合、子が慣れている祖父母の立会いの可否が検討されることがあります。
また、立会いまでは不要であるとしても、子の受渡し方法を検討する際に、祖父母の援助(すなわち、祖父母に子の受渡しを行ってもらう。)が検討されることがあります。
祖父母には、当然のことながら、監護親側の祖父母と非監護親側の祖父母がいます。
もっとも、面会交流の補助者を検討する場合、別居や離婚に伴い、監護親と非監護親側の祖父母との間でも、高葛藤状態の場合が多く、主に監護親側の祖父母が検討されることが多いのが実情です。
面会交流の補助者として祖父母を検討する場合、審判の場合には、面会交流実施要領として、祖父母の関与の内容を盛り込むことが多いです。
なお、この場合は、監護親と非監護親が高葛藤であることが前提であるため、面会交流の日時や場所の調整を当事者間で行うことが困難な場合が多く、面会交流実施要領として、これらを具体的に定めることが多いです(例えば、「第2日曜日、午前9時~午前12時まで」等)。
②面会交流の「主体」として関与する場合
監護親と非監護親の面会交流調停や審判の中で、非監護親が、交流内容の一貫として、祖父母(以下、特に断りがない限り、非監護親側の祖父母をいいます。)の面会交流の参加を求めることがあります。
上記①は、あくまで「非監護親と子との面会交流」の条件を検討する上での問題でしたので、上記②とは場面が異なります。
この点が争点になった場合(このような留保をするのは、非監護親が、面会交流中に、子を実家に連れて行き、祖父母と面会させることについて、非監護親がこれを知りながら黙認するケースもあるからです。このような場合には、祖父母の面会交流の参加が争点になっていないので、審判でも判断されないのが通常です。)、例えば、同居中、祖父母が子をほぼ監護しており、家裁調査官による調査の中で、子が祖父母に思慕の情を示しているようなケースを考えると、祖父母の面会交流の参加を認めることもあり得ます。
他方、監護親と非監護親が高葛藤であり、祖父母が関与した場合、無用な混乱が生じるおそれが否定できないとして、祖父母の面会交流の参加を認めないことが多いです。
最近の裁判例でも、例えば東京高決平成30年11月20日は、「非監護親の親族が監護親に対し、未成年者との面会交流を求め得る法的根拠はないから、非監護親がこれを認めるよう監護親に求めることはできない。」として、非監護親の主張をバッサリ排斥しています。
このような判断の根底には、「まずは、非監護親と子との面会交流を正常化したい。」との価値判断があります。
以上は、非監護親vs監護親のケースでしたが、端的に祖父母が面会交流調停ないし審判の申立てができるのでしょうか?
この点は、上記東京高裁の決定の理由のとおり、祖父母が主体(申立人)となって、面会交流調停や審判の申立てをすることはできません(最決令和3年3月29日)。
申立てがあっても、取下げを勧告されるか、調停では「なさず」で事件が終了し、審判では却下されることになるでしょう。
孫と会いたい祖父母としては、親族間の紛争解決調停の申立てをするほかありませんが、相手方となる監護親が協議に応じない場合、調停不成立となって終了します。
この場合、親族間の紛争解決調停は一般調停ですので、審判移行はせず、裁判官が判断することはありません(厳密には、上記調停において、祖父母と子の交流内容を定める調停に代わる審判をすることが可能ではありますが、このような場面では、監護親が異議を出す可能性が高く、これを行う裁判官は稀でしょう。)。
そうすると、監護親と非監護親の面会交流調停や審判において、祖父母の面会交流の参加が認められなかったり、あるいはそもそも非監護親がこのような主張をしない場合には、祖父母が子と面会を求めることは難しい、ということになります。
③家族法制の見直しについて
冒頭で紹介した要綱案では、祖父母の面会交流に関し、次の規律をもうけています。
赤字が実体要件、青字が補充性の要件とされています。
要綱案の規律が導入される場合には、「非監護親の親族が監護親に面会交流を求めることができる法的根拠はない。」という上記東京高裁決定の説示は、その前提を失うことになります。
要綱案の規律では、補充性の要件に注目する必要があります。
要綱案の補足説明によれば、補充性の要件について、父母以外の第三者がその申立てをすることが子の利益の観点から必要となるのは、父母の一方の死亡や行方不明等の事情によって、父母間の協議や子と別居する父母からの家庭裁判所に対する申立てが不可能又は困難である場面が想定されるとしています。
濫用的な申立てによる監護親の負担や子を何度も紛争に巻き込むことを回避する趣旨とされています。
もっとも、要綱案では、調停においても、補充性の規律が適用されるのか否かについては、明らかでありません。
仮に、調停では補充性の規律が適用されない場合には、調停の入口段階で、補充性の要件を満たさないとして処理することは難しいと思われます。
一定の期間内に、複数回にわたって、同様の申立てがされる等、濫用的な申立てであることが明らかでない限り、「なさず」で事件を終了させることは難しく、裁判所としては、協議の余地があるとして、調停期日を入れるのが一般的だと思われます。
そうすると、少なくとも、祖父母が監護親に面会交流を求める場合、調停には監護親が応じざるを得ない状況が出てきます。
調停での規律がどうなるのか、今後の議論が注目されます。
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