面会交流事件で、裁判官が良く参照する文献や参考書を紹介します(随時、更新していく予定です。)
なお、面会交流については、民法等の一部を改正する法律(平成23年法律第61号)により、「子の利益」を最も優先して判断すべきことが条文上明記されました(平成24年4月1日施行)。
面会交流についての審判例や裁判例を分析していても、この平成24年を境目として、傾向が変化したように思われるため、平成24年より前の文献や参考書については、その記載が現在の実務に即したものかについて、慎重に検討する必要があります。
おススメ度を星5段階で評価してみます!
松本哲泓『面会交流-裁判官の視点にみるその在り方-』(新日本法規、2022年)
家庭裁判所の実務と言えば松本先生(元裁判官)です。
婚姻費用や財産分与の分野でも参考書を執筆されており、いわゆる「松本本」と呼ばれているものです。
一度、目次だけでもざっと目を通していただきたいですが、およそ調停や審判で問題となるような視点を全て解説しているのでは?と思われるほど、高い網羅性があります。
何か論点で悩んだ際には、まずは参照することが多いです。
比較的最近の参考書ですが、面会交流事件の分野におけるスタンダードになるでしょう。
もとより、面会交流の可否や内容については、例えば、「子の年齢」であるとか「当事者間の高葛藤」といった1つの視点のみから結論が決まるものではなく、監護親側の事情、非監護親側の事情及び子の事情を総合考慮して、子の利益の観点から決まるものですので、この本があれば全て解決するわけではありません。その点には注意が必要です。
武藤裕一ほか『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規、2022年)
現役裁判官が共著で執筆している参考書です。
面会交流のみならず、婚姻費用や財産分与、慰謝料等の離婚関連の分野全般について、実務上の扱いを解説しています。
この参考書の特徴としては、論点についての結論を示すようにしており、読者を迷わせないように配慮しているという点が挙げられます。
家裁の事件類型は、裁判所の裁量が広いため、どうしても、一般的な参考書では、「事案による。」などと留保を付けがちであり、結論を示すことに躊躇されていることが散見されます。
そのような中で、この参考書は、例えば「宿泊を伴う面会交流や行事参加は、親権者の同意がない限り認められない。」などと、裁判例等を踏まえた分析に基づき、結論を言いきってます。
もふもふの感想としては、「やや監護親寄りかな?」と思わなくもないですが、多くの家裁裁判官の感覚に沿う記載も多いので、この参考書を片手に、面会交流の交渉や調停、審判を戦ってみても良いかも知れません。
細矢郁ほか「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家判26号129頁以下(2020年)
東京家庭裁判所における面会交流調停の運営方針について解説した文献です。
東京家庭裁判所のみならず、各種研修等により、このような運営方針は地方にも布教され、現在は、どこの家庭裁判所でも、この運営方針に従って進行していると思います。
ニュートラル・フラットな立場で、①安全、②子の状況、③親の状況、④親子関係、⑤親同士の関係、⑥環境の視点から、一切の事情を考慮し、子の利益を最も優先して判断する、というものです。
面会交流の可否や内容を検討するに当たっての視点であり、当事者との間で、このような視点を共有して調停を進めることができれば、当事者からしても、「調停が進んでいる。」と感じることもあるようです。
横田昌紀ほか「面会交流審判例の実証的研究」判タ1292号8頁等
横浜家庭裁判所の裁判官・家庭裁判所調査官による研究結果です。
平成21年の文献ですので、冒頭で解説したとおり、若干古い文献であり、必ずしも現在の実務に即していない記載もありますが、平成18年までに公刊された審判例を研究し、分析したものです。
実務上の指針が示されており、参考になります。
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