【推定相続人の廃除】裁判所の手続きの流れは?要件や認められない事例は?

家事事件

家庭裁判所の中で、遺産分割の次に紛争性が高い事件類型とされているのが、推定相続人の廃除(以下、単に「廃除」といいます。)です。

裁判例も少なく、後記のとおり、価値判断が相当に影響する事件類型(事実認定だけで勝負がつかないことが散見される。)ですので、裁判官としては、(簡単に却下できるような事案は別論として)事件処理に悩むことが多いです。

この制度は、遺留分を有する(ここがミソ)推定相続人(配偶者、子、直系尊属)の相続権をはく奪し、その取り分を「零」とする重大な効果があるものです(このような効果故に、紛争性が極めて高いです。)。

被相続人は、推定相続人の中に自分の財産を相続させたくない者がいる場合(例えば、喧嘩により疎遠になっている長男に財産を渡したくない等)、生前贈与や遺言によって、当該推定相続人以外の者に対して財産を与えることもできます(例えば、自分の介護に尽力してくれる長女に財産を渡す等)。

しかしながら、上記の例では、長男は、法律上遺留分を有しています。このような場合、当該長男が欠格事由(民法891条)に該当しない限り、長男にも財産が渡ることになります。廃除により、このような事態を回避することができます。

廃除の方法としては、①生前廃除と②遺言廃除があります。

どちらの方法をとるにせよ、廃除をするためには、家庭裁判所に対する申立てが必要です(廃除の意思表示をすれば当然に推定相続人が廃除されるわけではありません!)。

裁判官が参照する文献は?

廃除に関する文献は少ないですが、裁判官が参考にする文献は、次のとおりです。

  • 裁判所職員総合研修所『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究ー別表第一事件を中心にー』(司法協会、平成29年)
  • 坂本由喜子「廃除事由に関する最近の審判例の動向」判タ1100号・320頁以下
  • 坂本由喜子「推定相続人の廃除について-裁判例の分析を中心として」家裁月報46巻12号1頁以下

どれくらいの割合で認容されるの??

最新(令和4年度)の司法統計によれば、既済178件のうち、認容は36件、却下は88件、取下げは51件、その他3件であり、認容率は約20%です。

司法統計 結果一覧 | 裁判所 – Courts in Japan

このように、認容率はかなり低いということができます。

なお、取下げは、裁判官から却下心証を開示された事件が相当数含まれていると考えられます。

廃除の手続きの流れと留意点

廃除の裁判所における手続きの流れは、次のとおりです。

廃除の手続きの特徴としては、廃除が、推定相続人の相続権をはく奪するという重大な効果があることに鑑み、二当事者対立構造に類似するものと位置付け、推定相続人の防御の機会を確保するようにしている(申立書の写しの送付、必要的審問等)という点が挙げられます。

申立書の提出(申立人は、生前廃除=被相続人、遺言廃除=遺言執行者)
疎明資料の提出

申立書の審査

廃除対象の推定相続人に対する申立書の写しの送付
推定相続人の呼出し(審問期日の通知)

審問・事実の調査の通知

審理終結日・審判日の指定

審判

資料が多かったり、争点整理が必要であったりする場合には、他の別二審判事件(例:婚姻費用、遺産分割)と同様に、審判期日を繰り返し、最後に推定相続人の審問を実施することになります。

推定相続人とは異なり、申立人の審問は必要的ではありません。事案によって、推定相続人の審問と同期日に申立人の審問を実施したり、申立人の陳述書を作成してもらったり(あるいはこれらを併用したり)します。

原則として、廃除を求められている推定相続人には、申立書の写しが送付されます(家事法188条4項、67条)。したがって、(特に生前廃除の場合)推定相続人に知られると困るような事情は、申立書には記載しないようにする必要があります。

被相続人は、どのような疎明資料を準備しておくべきか?

遺言廃除の場合、遺言執行者が申立人となりますが、遺言執行者は、特に第三者(弁護士等)が指定される場合、(当然ですが)生前の被相続人と推定相続人との関係を把握していません。

したがって、申立書に添付されているのが、遺言廃除の記載がある遺言書だけの場合が往々にしてあります。

他に資料がなく、審問において、推定相続人が廃除事由を否認する場合、裁判官としては、廃除事由が認められないとして、却下せざるを得ません。

被相続人としては、例えば、廃除事由に応じて、虐待を受けたことを証する診断書を準備したり、警察への相談をしたり、少なくとも、日記やメモ類は残しておくべきでしょう。

推定相続人が裁判所からの呼出しに応じないような場合には、どうなるのか?

廃除においては、推定相続人の審問が必要的です(家事法188条3項)。裁判所は、審問を実施するために、推定相続人を呼び出すことになります。

推定相続人が呼出しに応じない場合、裁判所としては、家裁調査官に命じ、出頭勧告や意向調査(電話番号が判明していれば架電し、判明していなければ書面を送ります。)を行うことが多いです

これらにも応じない場合には、裁判所としては審問の機会を与えれば足りるので、最終的には審問を実施せずに審判をすることになります。

推定相続人の審問以外に、裁判所はどのような審理を行うのか?

裁判所としては、できる限り判断材料を収集するために、家裁調査官に命じ、他の推定相続人や親族に対し、調査を実施したり、書面照会を行ったりします。

したがって、被相続人としては、遺言廃除をする場合、誰が廃除に関する事情を良く把握しているのかについて、生前に、遺言執行者に情報共有をすることが極めて重要になります(上記調査官調査の端緒となるからです。)

廃除の要件は?認められない事例は?

廃除の要件は、①「虐待」、②「重大な侮辱」及び③「著しい非行」です(民法892条)。

  • ①「虐待」=被相続人に向けられた暴力や耐え難い精神的苦痛を与えること。
  • ②「重大な侮辱」=被相続人の名誉や感情を著しく害すること。
  • ③「著しい非行」=虐待や重大な侮辱に類する程度の非行。例えば、犯罪、服役、被相続人の財産の浪費等。

これらの廃除事由は、廃除が推定相続人の相続権をはく奪するという重大な効果があることに鑑み、かなり厳格に判断されます。

最近の裁判例(大阪高決令和2年2月27日)においても、「推定相続人の廃除は,被相続人の意思によって遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度であるから,廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱,その他の著しい非行は,被相続人との人的信頼関係を破壊し,推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものでなければならず,夫婦関係にある推定相続人の場合には,離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であると解するべきである。」と判示されています。

①「虐待」は、事実認定で判断できる場合が多く、比較的悩みが少ない類型です。

他方、②「重大な侮辱」や③「著しい非行」については、価値判断の面が大きく、悩ましい類型です。

裁判官としては、「被相続人と廃除が求められている推定相続人との間の相続関係を維持することが相当といえる程度に、家族的な協同関係が残っていると評価できるか否か。」という観点から判断しています。

審判例やもふもふの経験によれば、次のような事例では、廃除が認められない可能性が高いです。

  • 親の望まない婚姻をしただけのような場合
  • 問題行動があったが、一過性のものにとどまり、更生している場合
  • 問題行動があったとしても、被相続人にもその責任の一端があるような場合
  • 相続対策として廃除が利用されているような事情がうかがわれる場合

また、遺言廃除の場合、廃除を求める内容が余りに抽象的であり、遺言執行者において、廃除事由についての事情を把握しておらず、主張書面を提出できない場合には、内容の審理に入るまでもなく、却下されることがあります。

したがって、遺言廃除の場合には、その記載内容について、十分吟味すべきでしょう。

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