新件段階から事件を担当している場合は別として、異動に伴い、事件を引き継ぐ裁判官は、各自が工夫をしながら記録を検討しています。
この点、裁判官にリサーチしてみると、次のような記録検討される方が多いです。
訴状や答弁書といった当事者が裁判所に提出する最初の書面は、争点整理の序盤のみならず、後半戦でも頻繁に参照される重要な書面です。
訴状や答弁書、準備書面の書き方についての留意点は、以下のとおりです。
訴状の留意点
言うまでもなく、要件事実を意識した訴状を作成するのが(本当に)大切です。
特に、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では、権利侵害行為について、その主体や内容、時期を意識して特定する必要があります。
「被告がその主張事実に認否できるか。」という観点から、訴状を見直すことが有用です。
この点が曖昧な場合、初回期日において、被告や裁判官から、「認否のために主張を特定されたい。」との指摘が出る→これに対する補充をする、というやり取りが行われることになり、期日が1回分、無駄になってしまいます。
また、裁判官が判決を作成する段階でまず再確認するのは訴状ですし、争点整理中も、頻繁に訴状を確認するのが通常です。
訴状の中には、「~という主張は追って詳述する。」、「被告の対応を待って主張を補充する。」などと記載し、骨格部分しか記載していないものもありますが、上記のとおり、審理の中で見返されることが多い訴状の重要性に鑑みると、勿体ないと思います。
訴え提起段階では、時効がある場合を除き、十分な検討をした上で、完成度の高い訴状を提出する方が、原告にとっては有益であると思います。
答弁書の留意点
答弁書は、原告が主張する事実に対する認否が記載されることにより、争点が明らかとなるという意味で、重要な意義があります。
「原告が主張する事実に対し、要点を述べる。」であるとか、「被告が認識する事実は、次のとおりである。」などと記載し、認否をはっきり記載していない答弁書があります。割と期が高めなベテラン弁護士がこのような記載をしてくることがあります。
認否があいまいな場合、積極的には争っていないものとして、弁論の全趣旨で原告が主張する事実が認定されてしまうリスクがあります。
さすがに、主要事実の認否を記載していないことは稀であり、仮に記載していないとしても、裁判官が訴訟指揮で被告の認否を確認するのが通常です。これに対し、間接事実の場合は、それが重要な間接事実であることが争点整理段階で明らかとならない限り、判決段階まで放置されてしまう可能性があります。
そうすると、弁論が終結してから判決を作成するスタイルの裁判官の場合、判決段階で、被告が積極的に争っていなかった間接事実が顕在化し、それが原告の主張する主要事実の(一つの)根拠となって、認容されてしまうリスクを否定することができません(特に、当事者双方の供述の信用性が問題となる証拠構造の場合)。
間接事実であっても、十分な検討の上、認否を記載すべきであると思います。
(裁判官が交代した場合の)準備書面の留意点
争点整理段階では、主張→反論と書面が積み重なっていきます(最近では口頭議論を重視し、書面の作成を少なくする試みも行われていますが、まだまだ書面が作成されるのが通例です。)。
裁判官が交代するまでに、多くの準備書面が交わされています。
裁判官が交代した場合、心証が引き継がれるわけではないことに照らすと、訴訟が長期化している場合、原告や被告が重視している主張や事実が見逃されてしまうリスクがあります。
このような場合には、いわゆる要約書面を作成することが考えられます。
例えば、要約書面には、最低限、①主要事実、②重要な間接事実の要旨(必要に応じて準備書面を引用)、③重要な証拠を摘示すべきでしょう。
書面の中で判例や裁判例を引用するべきか
準備書面の頁数が多くなっているものの中には、判例や関連裁判例を長々と引用しているものがあります。
裁判官が判例や関連裁判例に反する心証を示している場合(直接的な心証を開示している場合のほか、それがうかがわれるような訴訟指揮をしている場合)に、それを是正するために、判例等を示すことはあり得るでしょう。
しかしながら、そのような是正の必要性があるとしても、準備書面で長々と引用することは、余りメリットがありません。
分量が多くなることにより、重要な事実関係が埋もれてしまう(裁判官が見過ごしてしまう)リスクもあります。
方法としては、陳述不要の上申書(第3分類に綴られることになります。)に判例等を添付して、提出することが考えられます。
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